やっぱり男子にリードしてほしい! 女子が少女漫画的シチュエーションを求めるワケ

ある夜、ぼーっとテレビを観ていると、恋愛バラエティがOAされていました。「あー、女の子が好きなやつね、うんうん」と思いながら観ていたのですが、そこにちょっとした違和感を覚えたのです。違和感というか、古くささ、といったほうが正しいでしょうか?

その番組は「LAST KISS~最後にキスするデート」。知っている人も多いと思いますが、簡単に言うと、「初対面の芸能人の男女が、一日デートをし最後にキスをする」様子を撮影した、疑似恋愛バラエティ。一度スペシャル番組として放送した際、「もっと見たい」との声が相次ぎ、その後シリーズ化されました。

番組の流れを順に説明しましょう。

目次

最後にキスするデート……


まず、若い女性芸能人がひとり男性芸能人を待つところから始まります。そこに、男性芸能人が登場し、二人は互いに自己紹介をします。彼らはほとんど初対面。そこではじめてお互いのことを知ることになります。

その後、デートが始まるのですが、ここで注目したいのはデートプランを立てるのは完全に男性側であること。デート中も男性がすべてをリードし、女性が楽しめるよう気を遣います。女性側は基本的に受け身のままで、男性側のリードによってデートを楽しみ、その結果としてふたりが打ち解けていく流れとなっています。

女性が男性に対して警戒心を解いていく一連の流れは、女性側の事後インタビューが何度も挟み込まれることによって表現されています。

そして、さらに注目したいのは「最後にキスする」こと。これがデートの最大のミッションです。番組では何度も「キスまであと6時間」といったことをアピールし、キス寸前の映像を流すなど、視聴者の期待をあおります。そして、最後にキスするのはもちろん、素敵なデートスポット。「キスまであと30分」!ふたりの間にはロマンチックな空気が流れ、ついには……!

と、ここまで読んできて、何か不思議に感じないでしょうか? いまどき、男性がすべてをリードって……? いまどき、キスってそんな大したこと……?

そう、番組全体には、古めかしくて懐かしいとも思える恋愛観が、つねに漂っているのです。

最近は、男性が完全に女性をリードするなんて考えは一般的ではありません。男女で一緒にデートプランを立てるなど、一緒に楽しんでいこうという風潮が一般的。また、性が過剰なまでに解放されている現代において、小中学生ならまだしも、深夜に起きているような大人が「たかがキス」をそこまで大騒ぎするなんて……。

なぜそこまで夢中になるの?


では、なぜこの昭和的恋愛観の番組が受けているのでしょうか? この番組を熱心に観ている大学生女性に話を聞いてみました。

「私、今の彼氏とかなり長く付き合っているので、もう友達みたいになってしまっていて。デートでも、彼氏にリードされるとか全然ないんですよ。だから、ああいうリードしてもらうデート観るとキュンキュンするなあって。実際はあっさりしたデートのほうが気楽で好きなので、あれを実際にやりたいわけではないです(笑)。観てキュンキュンするくらいがちょうどいいですね」

なるほど。普段、恋愛に関してあっさりしているぶん、フィクションとして楽しんでいるというわけ。実際にやりたいわけではないというのが興味深いところです。

もう一人、別の知人女性(27歳)はこう言っていました。

「『キスっていうゴールがあるって分かっていてデートしている』っていうシチュエーションを傍から見ているのはドキドキしますよね。イメージとしては少女漫画を見ている感じです(笑)。ああいうのって、思い切りクサイことしていても腹が立たなくて、一緒にドキドキできるんですよ。要は、大人の少女漫画なんじゃないですかね」

最近の若い世代は、トレンドである「あっさりさっぱりした恋愛」に飽き始めているのかもしれません。男女問わず恋愛離れが進んでいる昨今。ピュアでまっすぐな恋愛は、ともすれば時代遅れとも見なされがち。その不満を、テレビの中の過剰な演出を疑似体験することで解消しているのでしょう。

「恋愛傾向の揺り戻し」とも分析できるこの番組ですが、残念ながら3月を持って終了。次はどのような恋愛番組が、人々の心をくすぐるか楽しみに待ちたいと思います。
(五百田達成)

この記事を書いたライター

五百田達成
作家・心理カウンセラー。「男女コミュニケーション」「きょうだい型性格分析」「ことばと伝え方とSNS」をテーマに執筆・講演。35万部を超える「察しない男 説明しない女」シリーズほか著書多数。

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