「お弁当」の愛情効果は、思うよりも大きい!?

先日、「マンガ大賞2012」のノミネート作品が発表されました。そのなかの1つ、『高杉さん家のお弁当(柳原望著/メディアファクトリー)』という作品をご存知でしょうか。「食」がテーマの漫画は数多いものの、「お弁当」に的を絞った作品は割と珍しく、親しみやすい内容で世代や性別を超えて人気を博しています。

「お弁当」で家族になっていく二人


物語は、家庭の事情により、31歳の主人公男性(ハル)と、従姉妹の中学生(久留里)が一緒に暮らし始めるところから始まります。人はいいけれど、要領が悪く、未だ就職できずに大学に勤めるハルと、長らく母と二人暮らしで育ち、無口で人見知り、学校でも浮いている少女、久留里。久留里の母親(ハルの叔母)が、亡くなる際に、昔一緒に住んでいたハルを保護者に指名したことで、共同生活が始まります。

どちらも不器用で、家事の経験が浅く、頼りない共同生活。収入もほとんどなく、死亡保険金から養育費を受け取る状態で、保護者らしいことが、まるでできてないと感じたハルが、「せめて何とかできることを」と始めたのが、「お弁当作り」です。材料費をつぎ込みすぎたり、味付けに四苦八苦したりしながらも、スーパーで安い食材を調達することが趣味の久留里と、二人三脚で協力し合いながら、一緒にご飯を作り暮らしていきます。

この作品の面白いところは、まず「お弁当」についての主人公の発見です。お弁当作りを、「今食べるわけではない食事を作る、不思議な時間」だと感じ、「ほんの少し未来をしつらえる作業だ」と見出していくハル。就職も決まらず未来の見えない状態の自分が、誰かの食べる時間や状況を考えたりしながら、お弁当を作れていることに、逆に発見をし、励まされるのです。「ほんの少し未来を作ることができるなら、その先も、そのまた先も、きっと何かできることはあるのかもしれない」。大変な部分もありますが、「家族のためにできることがある」のは、とても幸せなことで、そうすることで、自分も力をもらっているのだな……と考えさせられる部分です。

「お弁当コミュニケーション」に思いを馳せて


無口で人見知りの久留里もまた、馴染めない学校の屋上で一人、ハルが無器用に作ったお弁当を食べることで、「家族」の存在を感じ、心を温めて頑張ろうと誓います。その後、作品のなかで、徐々に友達が増えていく過程のなかでも、お弁当や食べ物が大きく作用してきます。デザートを女子同士で交換したり、行事の日に多く持ってきて皆に振る舞った経験などは、皆さんもきっとあるはず。確かに「お弁当」は学校生活のちょっとしたコミュニケーションツールでもあったなぁ、なんて思い出すのも楽しいです。

さらに、ハルは、久留里がいつか成長して家を出たり、他に家庭を作ったり……と考え、「今の2人の生活が永遠ではないこと」に気付きます。同じご飯を食べ、家族という「共同体」を紡いでいる、今という時間。「家族にお弁当を作る」という時間は、人生で数年間ほど、言葉ではない愛情を伝えられる期間であり、「永遠ではない、この生活を大事にしよう」というハルの決意は、大きな共感ポイントではないでしょうか。昨年、ネット上で大きく話題になった東京ガスのCMでも、この「お弁当による家族コミュニケーション」がテーマになっていましたね。

ハルの研究する「地理学」にも注目!


そして、この作品のもう1つの見所が、主人公ハルが研究している「地理学」についての描写。地理学は、農村や都市などの「環境」と「人」の関係性を説く学問です。ハルは物語のなかで、様々な土地に出向き(フィールドワークと呼ばれる)、気候、自然、民族、風習、物産など、その土地を調査する作業をします。あまりメジャーではない学問分野ですが、震災後、「土地」と「人」との関係について考えることが増えたためか、とても興味深い内容がたくさん織り込まれていると感じました。その土地土地のストーリーを盛り込んだ、実際の「お弁当レシピ」が登場するのも、とても楽しいですよ。

誰だって一度くらいは、お弁当を作ってもらった経験があるはず。自分のお弁当の記憶を思い出したり、家族にお弁当を作る尊さについて考えさせられたり。現在、家族にお弁当を作っている、作ってもらっている、という方は勿論のこと、今は一人という方も、家族と暮らした日々、いつか暮らす日々を想像しながら、楽しめる作品です。ぜひお弁当を食べながら、読んでみてはいかがですか?
(外山ゆひら)

この記事を書いたライター

外山ゆひら
対人関係、心や生き方に関する記事多め。発言小町の相談コラム『恋活小町』担当。文芸・カルチャー・エンタメ方面を日々遊歩しております

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